北方謙三

白い玉砂利に踏みこむ。どこか、澄んだ気配が漂っているような気がした。鳥居をくぐり、作法通りの拝礼をする。祈ってはいなかった。神域にお邪魔しています、というご挨拶だけである。それでいいのだろう、とも思う。なんでも祈願すればいい、というものでもあるまい。ほんとうに祈願したい時は、別の気持ちで前に立てばいいのだ。生きていれば、そんなことも必ずあるのではないだろうか。 帰り道、やはり玉砂利が語りかけてくる。来てよかっただろう。ふだんは見えない、心の中のなにかが見えただろう。自問に近いが、どこか違う感じでもある。